コラム

杜雲華:「労働争議案件の審理における法律適用に関する解釈(二)」が企業・人事労務管理に与える影響について

2025-08-17
著者:杜雲華
2025年8月1日の午前、最高人民法院(最高裁判所)は記者会見を開き、「労働争議案件の審理における法律適用に関する解釈(二)」(以下「司法解釈二」という)を公表しました。本司法解釈二は2025年9月1日から施行されます。司法解釈二は企業の人事・労務管理に大きな影響を及ぼすと考えられるため、本稿では企業が特に注目すべきポイントを分析します。

一 外国企業常駐代表機構の訴訟上の地位
「外国企業常駐代表機構管理に関する国務院暫定規定」第11条によれば、外国企業が中国人を常駐代表機構の首席代表または代表として雇用する場合、必ず現地の外事サービス機関または中華人民共和国政府が指定するその他の機関を通じて雇用手続きを行わなければなりません。すなわち、外国企業常駐代表機構は中国籍の従業員と直接労働契約を締結することはできず、従業員は労務派遣会社と労働契約を結び、代表機構は労務派遣会社との間で労務派遣契約を締結し、その派遣に基づいて従業員が勤務する仕組みとなります。

また、外国企業常駐代表機構に関する規定によれば、代表機構は法人格を有せず、外国企業が当該代表機構の中国におけるすべての業務活動について法律上の責任を負います。このような労働関係において、従業員と代表機構の間に労働争議が発生した場合、代表機構自体が適法な訴訟当事者となり得るか否かが問題とされてきました。

これに対し、司法解釈二の第5条は、外国企業常駐代表機構が労働争議事件の当事者となり得ることを明確に規定しました。さらに、当事者が外国企業を追加して訴訟に参加させることも可能とされており、すなわち外国企業常駐代表機構と外国企業の双方が、労働争議事件において被申立人または被告となり得ることになります。

二 書面労働契約を締結しなかった場合の二倍賃金支払い義務の例外
労働契約法第82条では、使用者が労働者を雇用した日から1か月を超え、かつ1年未満の期間に書面の労働契約を締結しなかった場合、労働者に対して毎月2倍の賃金を支払わなければならないと定められています。また、使用者が本法の規定に違反し、無期限労働契約を締結しなかった場合には、無期限労働契約を締結すべき日から、労働者に対して毎月2倍の賃金を支払う義務があります。

しかし、実務においては、一部の労働者(特に管理職)が、この2倍賃金を得ることなどを目的として、あえて労働契約を締結しないケースも見られます。そこで、司法解釈二の第7条では、次のいずれかに該当する場合には、使用者は2倍賃金を支払う必要はないと定めています。

① 不可抗力によって契約を締結できなかった場合
② 労働者本人の故意または重大な過失により契約を締結できなかった場合
③ 法律または行政法規で定められたその他の場合

三 労働契約が法律上当然に延長される場合の二倍賃金支払い義務の不要性
労働契約の有効期間が満了しても、法律の規定により契約期間が自動的に延長される場合には、使用者が書面の労働契約を締結していないとはみなされません。したがって、この場合には「契約を締結しないこと」に対する二倍賃金を支払う必要はありません。

司法解釈二においては、以下のような場合に労働契約が法律上当然に延長されることが明記されています。
① 職業病の危険がある業務に従事していた労働者が、退職前の職業健康診断を受けていない場合、または職業病の疑いがあり診断・医学的観察期間中の場合
② 在職中に職業病を発症した場合、または業務災害により負傷し、労働能力を完全または一部失ったと認定された場合
③ 病気や業務外の負傷により、法定の療養期間内にある場合
④ 女性労働者が妊娠中、出産中、または授乳期間中である場合
⑤ 同一企業で15年以上継続勤務し、かつ法定退職年齢まで5年未満の場合
⑥ 労働者と企業との間で締結した「サービス期間」の契約がまだ満了していない場合
⑦ 企業の労働組合の専従の主席、副主席または委員が在任期間中に労働契約の満了を迎えた場合(ただし、在任中に重大な過失を犯した場合や法定退職年齢に達した場合は除きます)

四 労働契約満了後に未処理のまま放置した場合の法律上の結果
司法解釈二の第11条では、労働契約の有効期間が満了した後も労働者が引き続き勤務し、使用者が異議を示さないまま1か月を超えた場合、労働者は使用者に対し、従前と同じ条件で労働契約を更新するよう求める権利を有すると定めています。
この場合の法律上の効果は次のとおりです。
① 初めて労働契約が満了した後、1か月以上放置した場合には、使用者は一方的に労働契約を終了させる権利を失います。
② 2回目の労働契約が満了した後、1か月以上放置した場合には、労働者は使用者に対し、従前と同じ条件で無期限労働契約を締結するよう求める権利を有します。

したがって、企業は労働契約の期間を適切に管理する仕組みを整備し、契約満了前に必ず適時な手続きを行う必要があります。

五 競業避止について
司法解釈二では、競業避止義務に関して次の点が明確にされています。

① 労働者が、使用者の営業秘密や知的財産に関する秘密情報を知らず、または接触していない場合には、競業避止条項は効力を持ちません。
② 競業避止条項に定められた制限の範囲・地域・期間などが、労働者が知り得た営業秘密や知的財産に関する秘密情報と釣り合わない場合、その合理的範囲を超える部分は無効となります。
③ 使用者は、高級管理職・高度な技術者・その他秘密保持義務を負う者と在職中の競業避止条項を取り決めることができ、この場合には経済補償を支払う必要はありません。
④ 労働者が有効な競業避止の合意に違反した場合には、違約金を支払う義務があるほか、使用者からすでに受け取った経済補償も返還しなければなりません。

六 「労働契約の履行がもはや不可能」とされる場合の明確化
労働契約法第48条では、企業が違法に労働契約を解除または終了した場合、労働者は企業に対し、違法解除に伴う賠償金を請求するか、または労働契約の継続履行を請求するかを選択できると規定しています。
労働者が契約の継続履行を選んだ場合、「労働契約の履行がもはや不可能な場合」を除き、使用者は契約を継続しなければなりません。
企業にとっては、解雇した従業員が仲裁や訴訟で勝訴し、職場復帰することが最も懸念される事態です。
司法解釈二の第16条では、次のような場合は「労働契約の履行がもはや不可能」とみなし、使用者は労働者の復職を拒否し、賠償金を支払えば足りると定めています。
① 労働契約が仲裁または訴訟の過程で期間満了となり、かつ法律上の契約更新・延長義務がない場合
② 労働者が法定の基本養老保険の受給を開始した場合
③ 使用者が破産宣告を受けた場合
④ 使用者が解散した場合(ただし、合併または分割に伴う解散は除く)
⑤ 労働者がすでに他の使用者と労働契約を締結し、本来の職務遂行に重大な支障がある場合、または使用者から契約解除を求められても他社との契約を解除しない場合
⑥ その他、労働契約の履行が客観的に不可能な場合

七 労働者は違法解雇期間中の賃金を請求できる
企業が労働契約を違法に解除または終了させた場合、労働者が契約の継続履行を求め、その請求が認められたときに、解除日から復職までの期間の賃金を支払う義務があるのかどうかについては、これまで地域ごとに仲裁機関や裁判所の判断が統一されていませんでした。司法解釈二はこの点を明確化し、違法解雇に対する企業のコストをさらに高めています。

司法解釈二第16条によれば、企業が違法に労働契約を解除または終了し、労働者が継続履行を求めてその請求が認められた場合、企業は労働者の元の賃金基準に基づき、解除決定日から実際に継続履行する前日までの賃金を支払わなければなりません。労働紛争には労働仲裁、民事第一審、第二審の三つの段階があり、実務上、1年から2年程度を要することも珍しくありません。この期間中の賃金を全額支払うことは、企業にとって大きな負担となります。

ただし、企業が解除決定が労働者の不適切な行為に基づくものであることを証明できる場合には、労働者に相応の責任を負わせることができ、この期間の賃金についても相応の減額が認められます。

八 社会保険料を納付しないとの合意や約束は無効
社会保険料の納付は、使用者と労働者の双方に課される法的な義務です。双方が「社会保険料を納めない」と合意した場合や、労働者が使用者に対して「社会保険料の納付は不要」と約束した場合は、いずれも無効となります。これは新しい規定ではなく、既存の法律や法規で明確に定められており、司法実務においても無効として扱われてきました。今回の司法解釈二では、次の点がさらに明確化されました。

① 労働者と使用者が合意した場合でも、また労働者が一方的に申し出た場合でも、社会保険料を納付しないとする取り決めは無効です。使用者が法律に従って社会保険料を納付していない場合、労働者はこれを理由として、使用者に一方的に労働契約の解除を通知し、法定の経済補償金を請求することができます。
② 企業が従業員の給与から社会保険料の補償を明確に区分している場合、企業は労働者の社会保険料を追納したうえで、その補償額を従業員に請求することができます。

注意すべき点は、社会保険料の納付は使用者と労働者双方の義務であるということです。したがって、企業が従業員の社会保険料を追納する場合には、企業と従業員の双方がそれぞれの負担部分を追納する必要があり、企業が自らの負担分のみを納付すればよいというものではありません。

九 高齢労働者に関する規定へのさらなる注目の必要性
今回の司法解釈二では、従来の司法解釈一に規定されていた「使用者が、すでに法定の養老保険を受給している者または退職金を受け取っている者を雇用し、その間に発生した紛争について訴訟が提起された場合、人民法院はこれを労務関係として処理する」との条項が廃止されました。
さらに、人力資源社会保障部は2025年7月31日に「高齢労働者基本権益保障暫定規定(意見募集稿)」を公表しました。今後この規定が施行されれば、高齢労働者と使用者との関係は、新たに定められる規定に基づき取り扱われることになります。したがって、今後の動向を引き続き注視する必要があります。