この三つの罪は全て腐敗行為を規制する罪なので、外商投資の不正行為の規制につき、重要な意味があると考えます。本文において、その三つの罪を簡潔に紹介させていただきます。
1.同種営業不法経営罪(中国語:非法经营同类营业罪)について
罪の名称 | 刑法(2021年版) | 刑法(2024年版) |
同種営業不法経営罪 | 第165条 国有の会社又は企業の董事又は |
第165条 国有の会社又は企業の董事、監事、高級管理職が職務上の便宜を利用して、自己が任職する会社又は企業と同種の営業を自ら、又は他人のために営むことにより不法な利益を取得し、それが巨額であるときは、3年以下の懲役若しくは拘留と罰金を併科し、又は罰金を単科し、それが特に巨額であるときは、3年以上7年以下の懲役と罰金を併科するものと定めている。 その他の会社または企業の董事、監事、高級管理職が法律および行政法規の規定に違反し、前記の行為を実施し、会社または企業の利益に重大な損害を生じさせた場合、前項の規定により処罰される。 |
解説:
本罪の主体の範囲について、国有企業の場合、「董事、経理」から「董事、監事、高級管理職」までに拡大されました。会社法によると、「高級管理職」とは、会社の経理、副経理、財務責任者、上場会社の董事会秘書及び会社の定款に定めるその他の人員を指します。
本罪の適用範囲は、国有企業からすべての企業に拡大されました。また、国有企業の場合、不法の利益の金額は罪が成立するかどうかの判断基準となり、その他の企業の場合、「法律又は行政法規の規定に違反して」、かつ、「会社又は企業の利益に重大な損害を生じさせた」を充足して初めて、犯罪が成立するものとされています。重大な損害の基準につき、現時点では、明確に規定されず、今後の司法解釈に注目する必要があります。
2.親類・友人不法図利罪(中国語:为亲友非法牟利罪)
罪名 | 刑法(2021年版) | 刑法(2024年版) |
親類・友人不法図利罪 | 166条 国有の会社、企業又は事業単位の従業員が職務上の便宜を利用して、下記のいずれかの行為を行い、それによって国の利益に重大な損害を生じさせたときは、3年以下の懲役若しくは拘留と罰金を併科し又は罰金を単科し、国の利益に特に重大な損害を生じさせたときは、3年以上7年以下の懲役と罰金を併科するとしている。 ①自己の所在する会社・企業・事業単位の営利業務を自己の親類・友人に引き渡してその経営をさせる行為。 ②市場価格よりも明らかな高値で自己の親類・友人が経営管理する単位から商品の購入をし、又は市場価格よりも明らかな低値で自己の親類・友人が経営管理する単位に対し商品の販売をする行為。 ③自己の親類・友人が経営管理する単位から不適格な商品の購入をする行為。 |
166条 国有の会社、企業又は事業単位の従業員が職務上の便宜を利用して、下記のいずれかの行為を行い、それによって国の利益に重大な損害を生じさせたときは、3年以下の懲役若しくは拘留と罰金を併科し又は罰金を単科し、国の利益に特に重大な損害を生じさせたときは、3年以上7年以下の懲役と罰金を併科するとしている。 ①自己の所在する会社・企業・事業単位の営利業務を自己の親類・友人に引き渡してその経営をさせる行為 ②市場価格よりも明らかな高値で自己の親類・友人が経営管理する単位から商品の購入若しくは役務の享受をし、又は市場価格よりも明らかな低値で自己の親類・友人が経営管理する単位に対し商品の販売若しくは役務の提供をする行為 ③自己の親類・友人が経営管理する単位から不適格な商品又は役務の購入又は享受をする行為 その他の会社又は企業の従業員が法律又は行政法規の規定に違反して前項に定める行為を行い、よって会社又は企業の利益に重大な損害を生じさせた場合も、前項と同様の規定で処罰する。 |
解説:
親類・友人図利行為の範囲を従来の「商品」から「商品又は役務」へと拡大し、無形的な役務の購入(例えば、コンサルティングサービス、評価サービス、会計サービス等)も含めるものとしました。
本罪の主体について、その範囲は董事・監事・高級管理職のみならず、会社・企業のあらゆる従業員がこれに含まれます。その理由は、忠実義務を負う董事・監事・高級管理職のみならず、それ以外のいかなる従業員も、自己とその親類・友人との取引によって会社・企業の利益を害してはならないことが義務づけられているからです。
本罪の適用範囲は、前記と同じに、国有企業からその他の民営企業、外商投資企業に拡大されました。
3.「私利のために不正を行って、廉価で株式換算し、会社、企業の資産を売却する罪」(中国語:徇私舞弊低价折股、出售公司、企业资产罪)
罪名 | 刑法(2021年版) | 刑法(2024年版) |
私利のために不正を行って、廉価で株式換算し、 |
169条 国有の会社若しくは企業又はこれらの上級主管部門において直接に責任を負う主管者が私利のために不正を行って、国有資産の株式の換算又は売却を廉価で行い、よって国の利益に重大な損害を生じさせたときは、3年以下の懲役又は拘留に処し、国の利益に特に重大な損害を生じさせたときは、3年以上7年以下の懲役に処する。 |
169条 国有の会社若しくは企業又はこれらの上級主管部門において直接に責任を負う主管者が私利のために不正を行って、国有資産の株式の換算又は売却を廉価で行い、よって国の利益に重大な損害を生じさせたときは、3年以下の懲役又は拘留に処し、国の利益に特に重大な損害を生じさせたときは、3年以上7年以下の懲役に処する。 その他の会社又は企業において直接に責任を負う主管者が私利のために不正を行って、その会社又は企業の資産の株式への換算又は売却を廉価で行い、よってその会社又は企業の利益に重大な損害を生じさせたときも、前項と同様の規定で処罰する。 |
解説:
本罪の行為は、「廉価株式換算」と「廉価売却」の2つであり、通常、「廉価株式換算」とは、会社の資産を故意に過小評価して価格設定を行い、株式に換算して出資とすることをいい、「廉価売買」とは、会社の資産をその実際の価値より低い価格で他人に売り渡すことをいいます。しかし、「廉価」の認定方法については法令に明確な規定がありませんが、実務のやり方を参照しますと、資産評価に基づく価値判断が求められる可能性が高いと考えられます。
近年、民営企業や外商投資企業の不正問題が頻繫に発生し、企業の継続経営に影響する深刻な課題となっています。今回刑法の改正によって、民営企業、外商投資企業の腐敗行為も国有企業と同様に処罰され、企業の不正行為の規制に非常に有利になると考えます。前記の内容の他に、改正案(十二)において、贈収賄犯罪に対する処罰規定も強化しましたので、企業内部で研修会等を行って、高級管理層や一般従業員に周知した方がよいと考えます。