著者:杜雲華
1 中国における損害賠償の基本原則
契約当事者が契約を履行しない、または約定どおりに履行せず、相手方に損害を生じさせた場合、当該損害を賠償しなければなりません。賠償額は次の三つの基本原則に基づき決定されます(民法典第584条)。
(1) 損害補填の原則
賠償額は違約により生じた損害に相当します。中国における違約損害賠償は、実際に被った損害の補填を原則としており、違約者に対する懲罰的な意味合いは含まれません。
(2) 損害には直接損害および間接損害が含まれる原則
損害には直接損害のほか、間接損害、すなわち契約が履行されていれば得られたであろう利益(逸失利益)も含まれます。
例えば、設備の修理を業者に依頼したところ、修理業者が約定した修理完了日から3日間遅延した場合、当該設備が稼働することで1日あたり2,000元の利益が得られるのであれば、修理業者に対し逸失利益に相当する6,000元の損害賠償を請求することができます。
(3) 予見できる範囲を超えてはならない原則
損害には間接損害も含まれるものの、賠償責任が無限に拡大するわけではありません。間接損害(逸失利益)については、違約者が契約締結時に予見した、または予見し得た範囲を超える金額については賠償責任を負いません。
例えば、タクシー運転手の過失により到着が遅れ、乗客が100万元の利益が見込まれる入札機会を逸したという場合、タクシー運転手に対し100万元の賠償を請求することはできません。これは、タクシー運転手が自らの過失により乗客に100万元もの損害を生じさせることを予見することはできないためです。
2 契約における違約金の設定
原則として、一般の商取引契約においては、違約金や損害賠償額について当事者間で自由に定めることができます。例えば、取引金額が100万元の契約であっても、違約金を100元と定めても、100万元と定めても法律違反にはなりません。当事者の自由意思および誠実信用原則に基づき、違約が発生した場合には契約に定められた違約金を支払う義務が生じます。
もっとも、前述のとおり、中国の損害賠償は損害補填を原則としています。このため、後述するように、違約金については裁判所による調整制度が設けられています。
3 違約金の調整
約定された違約金額が実際の損害額を下回る場合には、不利益を受けた当事者は裁判所または仲裁機関に対し増額を求めることができます。逆に、約定された違約金額が実際の損害額を著しく超える場合には、不利益を受けた当事者は裁判所または仲裁機関に対し減額を求めることができます(民法典第585条)。
「約定された違約金額が実際の損害額を著しく超える」との判断基準については、最高人民法院による『中華人民共和国民法典・契約編総則の適用に関する若干問題の解釈』第65条において次のように定められています。
当事者が、約定された違約金が違約によって生じた損害に比して過度に高額であるとして相当な減額を求める場合、人民法院は民法典第584条に規定する損害を基礎としつつ、契約主体、取引類型、契約の履行状況、当事者の過失の程度、履行の背景等の要素を総合的に考慮し、公平原則および誠実信用原則に従って衡量し、裁判を行う。約定された違約金が生じた損害の30%を超える場合には、人民法院は一般にそれを損害に比して過度に高額であると認定することができる。
いずれの場合においても、不利益を受けた当事者は、当該不利益が生じたことについて裁判所に立証する必要があります。この立証は必ずしも容易ではないため、一般に高額な違約金を設定すれば違約責任を追及する側に有利となり、低額な違約金を設定すれば追及される側に有利となります。
4 支払遅延に関する違約金の設定
支払遅延に関する違約金についても、上記の違約金の範疇に属し、同様の原則が適用されます。支払遅延に係る違約金は商取引契約において頻繁に問題となる事項であり、支払者に対して約定どおりの支払を促すため、一般に日割りで算定されます。約定が合理的な範囲内であれば、裁判所によって調整されることはありません。
「最高人民法院による売買契約紛争事件の審理における法律適用問題に関する解釈(2020年修正版)」第18条によれば、売買契約において支払遅延に関する違約金またはその算定方法の定めがない場合、人民法院は違約行為発生時に中国人民銀行が公表した1年期ローン市場報告レート(LPR)を基準とし、30〜50%を加算した利率をもって支払遅延による損失を算定することができます。現在の1年期LPRは3.00%であり、これに30〜50%を加算すると年利換算で3.90〜4.50%となり、日利に換算すると約0.01%/日となります。
さらに、「中小企業への支払を保障する条例」第17条によれば、行政機関、公共事業体および大型企業が中小企業への支払を遅延した場合、遅延利息を支払わなければなりません。双方が遅延利息の利率について定めた場合、その利率は契約締結時の1年期LPRを下回ってはならず、定めがない場合には日利0.05%で遅延利息を支払うものとされています。
以上を踏まえると、支払遅延に関する違約金を日利0.01〜0.05%の範囲で定めることは一般に合理的とみなされ、裁判所によって調整されることは通常ありません