コラム

医療広告に関するリスク管理

2025-09-17
著者:杜雲華
 
医療情報の公示、健康に関する普及啓発と商業広告との区分は、実務においてしばしば問題となってきました。2025年8月13日、国家市場監督管理総局・国家衛生健康委員会・国家中医薬管理局は、共同で「医療広告認定ガイドライン」(以下「ガイドライン」という)を公表しました。
ガイドラインは、医療広告に該当しない場合および該当する場合を具体的に列挙しており、医療機関が広告を行う際のコンプライアンスにとって極めて重要な指針となっています。
本稿では、その内容について紹介いたします。

 一   広告に該当しない場合(ポジティブリスト) 
ガイドラインは、以下の内容については医療広告に該当しないことを明確にしています。
  類別 内容
1 医療科研情報の公表 医療機関が医療研究を目的として、被験者や臨床研究の患者を募集するなど、研究関連の情報を発表する場合。
2 診療・就医ガイド 医療機関が分診や就医の案内を行う場合、またはインターネット診療の過程で患者に対しオンライン相談・回答や診療ガイドを提供する場合。
3  
医療情報の公開  
医療機関が、自らの施設内、自らが運営するプラットフォーム(ポータルサイト、モバイルアプリケーション)、ウェブサイトプラットフォームにより認証を受けた「自媒体」または第三者のECプラットフォームにおいて、医療機関の概要、担っている公共サービスの職能、重点診療科、医療従事者の情報、医療サービスの内容、診療サービスの流れ、さらに医療保険、価格、料金、苦情申立て方法等、法令上公開が義務付けられている事項または患者が受診に際して必ず把握すべき情報を公表する場合であって、当該医療機関の推奨を目的としないもの。
なお、第三者のECプラットフォーム(インターネット診療プラットフォーム等)に情報を掲載する場合は、表形式での掲載に限られる点に注意が必要である。
4  
医療・健康に関する普及啓発
医療機関または医療従事者が、文章、画像、動画、ライブ配信その他様々な形式により健康に関する普及啓発活動を行う場合。ただし、特定の医療機関またはその医療サービスを推奨する内容を含んではならない。
また、当該普及啓発活動において、医療従事者の氏名、職称、所属する主たる医療機関の名称、具体的な診療科名を紹介することは、なお健康普及啓発情報の範囲に含まれる。

二  医療広告に該当する場合(ネガティブリスト) 
以下の行為は、医療広告の発表または変形した医療広告の発表に該当します。

①当該医療機関の就医環境や医療機器等のハード面について、主観的な評価を交え推奨すること。
②当該医療機関またはその医療従事者の診療技術、診療プロセス、診療効果について、主観的評価や保証的表現を用いて推奨すること。
③他の医療機関との比較を行うこと。
④当該医療機関を推奨する目的で情報を発表すること。
⑤診療技術、設備、診療効果等の優位性を強調し、特定の医療機関またはその医療サービスを推奨すること。
⑥特定の医療機関を受診すれば、より高い安全性、優れた治療効果、または価格面での優遇が得られると明示し、または暗示すること。
⑦当該医療機関または他の医療機関の具体的な医療サービスを、直接または間接的に推奨すること。
⑧症例や事例紹介の形式で、特定の医療機関やその医療サービスを推奨すること。
⑨健康普及啓発のウェブページ内に、当該普及啓発内容に関連する医療機関や医療サービスへのリンクを付すこと、またはその普及啓発に対応する医療サービスに不可欠な医薬品・医療機器等の商品購入リンクを付すこと。
⑩その他、特定の医療機関やその医療サービスを推奨する行為を行うこと。 

三   規制当局の職責分担

「ガイドライン」では、市場監督部門と衛生健康部門との協同監督メカニズムが明確にされています。具体的には、市場監督部門は主として医療広告における違法行為の認定と処理を担当します。
衛生健康部門は、主として医療機関の情報公開や健康普及啓発活動を監督し、内容に誤りや誤解を招く表現がある場合(広告には該当しないが)、是正を命じます。
また、変形的に医療広告を発信している疑いがある場合には、その手がかりを市場監督部門に通報します。

四 「情状が重大」とされる場合の明確化 
「広告法」および「医療広告管理弁法」の関連規定によれば、違法な医療広告を発信し、「情状が重大」である場合には、市場監督管理部門による処罰に加えて、衛生行政部門が診療科目の許可取消や医療機関開設許可証の取消を行うことができます。
今回の「ガイドライン」では、違法医療広告における「情状が重大」なケースを初めて具体的に示し、法執行により明確な根拠を与えています。
 
具体的には、「情状が重大」とされるのは以下の場合です。

①人に死傷、重傷、容貌の損傷その他の深刻な生命健康安全への危害を与える場合
②虚偽広告罪を構成する疑いがあり、公安機関に移送すべき場合
③「医療機関開設許可証」や診療所の備案証明(「中医診所備案証」を含む)を取得していない非医療機関、または未承認・未届出の診療科目に対し、患者を誘引・紹介した場合
④ 1年以内に2回以上違法な医療広告を発信し、重大な社会的不良影響をもたらした場合
⑤ その他「情状が重大」と認定すべき場合 

五 医療機関に対するコンプライアンス上の提言
 
「ガイドライン」の規定および関連する法律・法規の規定を踏まえ、医療機関は情報の公表および広告活動において、以下の点に重点的に留意すべきです。

1.情報公開発信に関する自己点検チェックリスト

医療機関におかれましては、内容を発信する前に自己点検の仕組みを設け、情報公開や健康に関する普及・啓発活動が医療広告に該当しないようにすることが望まれます。
 
そのうち、公式ウェブサイトやECプラットフォーム等を通じた情報公開に際しては、機関名称、住所、電話番号、診療科目、医療従事者の資格情報、サービスの流れ、料金基準などを客観的かつ真実・正確に記載する必要があります。
「トップレベル」「最先端」「唯一」といった主観的・絶対的な表現は避けなければなりません。また、他院との比較は一切禁止されており、「必ず治る」「無リスク」といった治療効果や安全性を保証する表現も禁止されています。
 
さらに、公式アカウントや動画アカウントなどの自媒体を通じて発信する健康科普コンテンツについては、科学的かつ権威ある健康知識の普及を徹底し、内容の中に自院のサービス紹介を挿入することを避けなければなりません。
また、患者事例(特に治療前後の比較画像)を用いた宣伝は一切禁止されており、記事や動画内に予約やサービス購入に直接つながるリンクを付すことも禁止されています。

2.医療広告内容における核心的禁止事項の明確化

一度、発信内容が広告と認定された場合には、「広告法」および「医療広告管理弁法」の規定を厳格に遵守しなければなりません。特に以下の禁止事項に留意する必要があります。

①データ保証の禁止:治癒率や有効率を示してはならない。
②効果・安全性保証の禁止:「安全で副作用なし」など、効果や安全性を断言または保証する表現を含んではならない。
③代言人の禁止:患者、医療従事者、社会団体などを含む広告代言人による推薦や証明を利用してはならない。
④内容の制限:医療広告の内容は『医療広告管理弁法』第6条で規定された事項(機関名称、住所、診療科目など)に限られ、医療技術、診療方法、疾病名、薬品に関する記載をしてはならない。
⑤変形的な広告発信の禁止:ニュース形式や医療情報サービス番組などを利用した広告の発信、またはそれに準ずる形での広告発信をしてはならない。