日本本社で採用され、日本で各種年金を納付している従業員が、中国の現地法人や外国企業の代表機関に派遣される場合、日本人駐在員と中国籍の駐在員の「五険一金」の納付に相違があるかどうかについて、以下でご紹介いたします。
一 中国の「五険一金」の負担比率と帰属について
中国の社会保険料は、企業と従業員が按分して負担する制度が採用されており、その負担比率や資金の帰属、用途については、以下の表をご参照ください。
保険種類 | 納付義務者 | 資金の帰属 | 資金の用途 |
養老保険 | 使用者:20% | 国の基本養老保険基金に振り込まれる | 国が定年退職者に年金を支払う |
従業員:8% | 養老保険金(個人口座)に振り込まれる | 本人の年金、本人が定年退職後支給される | |
医療保険 | 使用者:8%~10% | 国の医療保険基金に振り込まれる | 国が医療保険参加者の医療費用を支払う |
従業員:2% | 医療保険金(個人口座)に振り込まれる | 個人の財産、個人の医療費用を支払う | |
労災保険 | 使用者:0.2%-1.9% | 国の労災保険基金 | 国が労災者の各待遇を支払う |
失業保険 | 使用者:0.5%-0.8% 従業員:0.3%-0.5% |
国の失業保険基金に振り込まれる | 国が失業者に対する保険金を支払う |
生育保険 | 使用者:0.5%~1% | 国の生育保険基金に振り込まれる | 国が出産の女性の各待遇を支払う |
ここでご留意いただきたいのは、前述の「養老保険金(個人口座)」と「医療保険金(個人口座)」は、使用や引き出しに特定の条件を満たす必要がありますが、個人の財産として理解して問題ありません。本人が死亡した場合、これらの口座にあるお金は相続することができます。
住宅積立金について、以下の表をご参照ください。
住宅積立金 | 納付義務者 | 資金の帰属 | 資金の用途 |
住宅積立金 | 使用者:5%~12% 従業員:5~12% |
住宅積立金管理センターにある従業員の専用口座に振り込まれる。従業員の「住宅を確保するための貯金」である。 | 従業員が住宅購入、内装、住宅建築、マンションの賃貸をする場合、その貯金を引き出すことができる |
使用者が納付する分と従業員が納付する分が全部従業員の「住宅を確保するための貯金」に該当し、従業員の個人の財産に該当します。
二 駐在員の社会保険の納付
駐在員の社会保険の納付に関して、以下のような変化がありました。
- 2011年10月15日以前:日本の駐在員は、中国で社会保険に加入する必要がありませんでした。
- 2011年10月15日以降:「中国国内で就労する外国人の社会保険に参加する暫定方法」の公布により、日本の駐在員を含む中国で勤務する外国人は、中国で社会保険に加入しなければならなくなりました。
- 2019年9月1日以降:「中国政府と日本政府の社会保障協定」に基づき、日本の駐在員が日本で国民年金および厚生年金に加入している場合、申請手続きを経て、中国での社会保険の養老保険を納付する必要がなくなりました。
中国籍の駐在員が中国で勤務する単位が現地法人か外国企業常駐代表機構であるかによって、以下の相違があります。
現地法人で勤務する場合
「中国政府と日本政府の社会保障協定」が適用され、日本駐在員と同様に、中国の社会保険の養老保険を納付する必要はありません。
外国企業常駐代表機構(以下「代表機構」といいます)の首席代表または代表として中国に派遣される場合
外国企業が中国人を代表機構の首席代表または代表として雇用するには、代表機構の関連規定に基づき、現地の外事サービス機関または中華人民共和国政府が指定するその他の機関に委託し、中華人民共和国の関連法規に基づいて申告手続きを行う必要があります。具体的には、中国籍の首席代表と代表が労働派遣会社と労働契約を結び、代表機構が労働派遣会社と労働派遣契約を締結し、労働派遣会社が中国籍の駐在員を代表機構に派遣する必要があります。このような法律関係に基づき、労働派遣会社は中国労働契約法の関連規定に従い、中国籍の駐在員のために社会保険と住宅積立金を支払わなければなりません。
三 駐在員の住宅積立金の納付と利用
住宅積立金については、「住宅積立金管理条例」および「建設部、財政部、中国人民銀行による住宅積立金管理に関する具体的な通知」に基づき、企業は中国籍の駐在員に対して住宅積立金を納付する義務があります。一方で、外国人および香港・マカオ・台湾籍の従業員は強制納付の対象外となるため、企業は日本籍の従業員に対して住宅積立金を納付する必要はありません。
四 帰任後の社会保険の抹消と保険金の引き出し
(1) 日本駐在員の場合
「中国国内で就業する外国人の社会保険加入に関する暫定弁法」第5条の規定によれば、社会保険に加入している外国人が定められた年金受給年齢に達する前に中国を離れる場合、その社会保険個人口座は保留されます。再度中国で就業する際には、保険料の納付期間が累計計算されます。また、本人が書面で社会保険関係の終了を申請した場合、社会保険個人口座の残高を一括で受け取ることも可能です。
したがって、日本駐在員が帰任する際には、社会保険関係を終了し、社会保険中の養老保険(年金)個人口座および医療保険個人口座の残高を一括で受け取ることができます。
(2) 中国籍駐在員の場合
社会保険に関する法律および規則の規定に基づき、中国籍の従業員は以下の条件を満たす場合に限り、社会保険関係を終了し、養老保険(年金)個人口座の年金を一括で受け取ることができます。
① 従業員が中国国籍を喪失した場合
② 従業員が死亡した場合
③ 従業員が定年退職年齢に達したが、累計納付期間が15年に満たず、今後の納付を希望しない場合、書面で養老保険関係の終了を申請すること
つまり、日本籍の駐在員とは異なり、中国籍の駐在員は日本への帰任を理由として養老保険個人口座の資金を一括で受け取ることはできません。
医療保険の終了および個人口座の医療保険金の受け取りについては、全国統一の規定は存在せず、各地域の規定が若干異なります。一般的には、以下の条件を満たす必要があります。
① 従業員が死亡した場合
② 従業員が国外に永住するか、中国国籍を喪失した場合
③ 医療保険関係が管轄区域を変更した場合
2番目の条件に関して、実務上、一部の地域では中国国籍の喪失を求める一方で、他の地域では外国の永住権を取得し、中国の戸籍を抹消することが求められています。各地域で異なるものの、養老保険と同様に、中国籍の駐在員は日本への帰任を理由として医療保険の個人口座から資金を一括で受け取ることはできません。
前述の通り、日本人従業員と中国人従業員は、日本本社で採用され、本社の規則や制度が適用され、日本の法律に基づいて各種福利厚生を享受する点では共通しています。しかし、一旦駐在員として中国に派遣されて勤務する際には、中国の法律に基づき、日本人駐在員と中国籍駐在員の間で社会保険および住宅積立金の納付と利用に関して相違があるため、人事管理において十分な配慮が必要です。