コラム

杜雲華:訴訟案件に関わる場合の日本人駐在員の出国制限

2025-04-25
中国の日系企業の法定代表者、総経理、財務責任者等は、通常、日本本社から中国に派遣された日本人駐在員が務めることが多いです。これらの日系企業は、経営活動の過程で訴訟事件に関与する可能性があり、またさまざまな事情により刑事事件に巻き込まれるおそれもあります。事件の調査、審理、判決執行の過程で、外国人の法定代表者、総経理、財務責任者(以下「法定代表者など」という)が出国制限の措置をとられるかどうかは、日本本社や現地の日系企業の経営陣が非常に注目する問題です。本文は、これらの問題についてQ&A形式で解説します。ご参考ください。
 
Q1:日系企業が民事事件の被告となる場合、判決が確定する前の審理段階で、法定代表者などが出国制限の対象となる可能性があるか。
 
A:民事事件においては、外国人に出国制限の措置をとられるのは厳格な制限が設けられており、特定の条件を満たす場合にのみ、出国が制限される可能性があります。2010年、最高人民法院の「国境地域における外国人を対象とする民事商事事件の審理に関する指導意見」によれば、外国人に出国制限措置をとるには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
  • 中国国内で未解決の民事商事事件があること。
  • 当事者または当事者の法定代表者、責任者であること。
  • 訴訟を逃避し、または法定義務の履行を回避する可能性がある。
  • 出国を許可すると、事件の審理が困難になるか、判決が執行できない恐れがあること。
以上の規定によると、4つの条件をすべて満たす場合、日系企業が民事事件の被告となる場合、審理段階においても法定代表者などが出国制限される可能性があります。しかし、実際の運用では、裁判所は民事事件における外国人の出国制限について非常に慎重な態度を取り、申請する側は上記の条件を満たす十分な証拠を提供する必要があります。そのため、実際には日系企業が民事訴訟事件の被告になっただけで、事件が審理中で法定代表者などが出国制限をかけられることは極めて少ないです。
 
Q2:民事事件の判決が確定した後、日系企業が判決書に定められた義務を履行しない場合、その法定代表者などが出国制限される可能性があるか。
 
A: 最高人民法院が発表した「民事訴訟法の適用に関する執行程序の若干問題の解釈」(2020年修正)第24条によると、執行対象が法人の場合、その法定代表者、主要な責任者、または債務履行に直接影響を与える責任者に対して出国制限をとることができます。したがって、民事判決が確定し、日系企業が判決書に定められた義務を履行しない場合、法定代表者などは出国制限の措置をとられる可能性があります。
 
Q3:民事事件において、出国制限の手続きはどのように開始されるか。
A:主に以下の2つの方法で開始されます。
 
(1)申請側が書面で申請する
申請する側(すなわち、事件の原告または他の利害関係人)は、被告の法定代表者などの出国を制限するよう、裁判所に書面申請と関連する証明資料を提出することができます。
 
(2)裁判所が職権に基づく決定する
強制執行手続において、必要に応じて、裁判所は事件の具体的状況に基づいて、自ら外国人の出国を制限する決定をとることができます。
 
いずれの方法でも、裁判所は出国制限の法定条件に合致しているかどうかを厳しく審査します。
 
Q4:民事事件において、法定代表者などが出国制限された場合、どのような救済措置を講じてその制限を解除することができるか。
 
A:以下の方法で出国制限を解除することができます。
 
(1)判決書に定められた義務を履行する
法定代表者などは日系企業が裁判所の確定判決を履行していないために出国制限された場合、判決書に定められた義務を履行した後は、出国制限措置が解除されます。
 
(2)有効な担保を提供する
日系企業またはその法定代表者などが、人民法院に有効な担保(担保の額は訴訟請求の額に相当する必要があります)を提供するか、または法定の義務を履行した後、裁判所は状況に応じて出国制限措置を解除することができます。
 
(三)異議申立
「人民法院が執行異議および復議事件を処理するに際してのいくつかの問題に関する規定(2020年修正)」第9条によると、日系企業が法定代表者などの出国制限決定に誤りがあると判断した場合、決定を受けた日から10日以内に上級人民法院に再議を申請することができます。上級人民法院は15日以内に決定を下します。再議期間中、元の決定の執行は停止されません。
 
Q5:会社が刑事事件に巻き込まれた場合、法定代表者などが出国制限される可能性があるか。
 
A:「中華人民共和国出入国管理法」第28条の規定に基づき、外国人が刑罰を言い渡されたがまだ執行が完了していない場合、または刑事事件の被告人、容疑者に該当する場合は、出国できません。したがって、日系企業が犯罪を疑われ、その罪名が会社とその法定代表者などの責任者に対して「二重罰」が適用される場合、法定代表者などは一緒に被告人または容疑人として出国制限される可能性があります。
 
Q6:刑事事件において、出国制限の手続きはどのように開始されるか。
 
A:刑事事件においては、出国制限は被害者の申請を必要とせず、通常、司法機関が職権で開始することができます。
 
(1)公安機関
捜査段階では、法定代表者などが犯罪容疑者と認定された場合、公安機関は出入国管理部門に直接出入国制限を通知する権利があります。ただし、出国制限の決定は、省、自治区、直轄市の公安庁、局または国家安全庁、局の承認を取得する必要があります。
 
(2)検察院
起訴審査段階において、検察院は事件の必要に応じて、法定代表者などの出国を制限する決定を下すことができ、同時に同レベルの公安機関に通知します。
 
(3)裁判所
審理段階と執行段階において、裁判所は同様に職権に基づいて法定代表者などの出国を制限することができ、同時に同級公安機関に通知します。
 
Q7:刑事事件において、出国制限された場合、どのような救済措置を取って制限を解除することができるか。
 
A:まず、日系企業は出国制限を決定した機関と積極的に連絡を取り、出国制限された理由を確認し、説明や担保の提供などによって出国制限の解除を求めることが可能です。日系企業が出国制限の決定が誤っていると判断し、協議によって解決できない場合、その決定がどの機関によってなされたかにかかわらず、法律や規則に基づき、決定を行った機関の上級機関に復議または申立てを提起し、救済を求めることが可能です。
 
Q8:その他どのような場合に会社の法定代表者などが出国制限を受ける可能性があるか。
 
A:民事事件や刑事事件以外、以下の状況でも、会社の法定代表者などが出国制限される可能性があります。
 
(1)税金問題
「中華人民共和国税収徴収管理法」第44条によれば、会社が税金や延滞金を未納する場合、かつ会社が担保を提供しない場合、税務機関はその法定代表者の出国を制限することができます。
 
(2)破産手続き
「中華人民共和国企業破産法」第15条の規定に基づき、企業の破産手続中は、裁判所が破産申請を受理した日から破産手続が終了する日まで、法定代表者などは裁判所の許可なくして住所地を離れることができません。法定代表者などが外国人の場合、間接的に出国できないことになります。
 
(3)個人の問題
「中華人民共和国出境入境管理法」第28条の規定によれば、日系企業と関係せず、外国人個人の問題により、公安機関、検察院や人民法院が容疑者、被告人とする場合、未解決の民事事件がある場合、または労働者の賃金を滞納している場合、出国制限の対象とされる可能性もあります。