改革開放以降、多くの日本企業が中国において大規模な投資を行ってきたが、数十年にわたる発展を経て、現在では再編の必要性に直面している企業も少なくない。再編手法には、合併、会社分割、持分譲渡、事業譲渡、減資、解散・清算等があるが、本稿では、会社分割の概念、手続、及び実務上の留意点について論じる。
1.会社分割の概念中国の「会社法」および「民法典」では、会社分割について明確な定義はなされていないが、2015年に改正された「外商投資企業の合併および分割に関する規定」第4条において、会社分割とは、会社の最高意思決定機関の決議に基づき、1つの会社を2社以上に分割する行為と定義されている。
会社分割は、大きく分けて「存続分割」と「解散分割」の2種類に分類される。「存続分割」は、元の会社が存続しつつ、新たに1社または複数の会社を設立する形態である。一方、「解散分割」は、元の会社が解散し、その資産をもって複数の新会社を設立するものである。
2.会社分割の手続
一般的に、会社分割には以下のような手続が必要となる。
(1)分割計画の策定
董事会が分割計画を策定する。計画には、分割の形態、基準日、各社の商号、登録資本金、実払資本、出資の履行状況、債権債務の承継方法、事業・資産の区分、人員配置、移行期間の管理等を含める。
(2)分割決議の採択
株主会にて特別決議を行い、議決権の3分の2以上の同意を得る必要がある。
(3)特別監査・財産の明細作成
財産の分割に際しては第三者機関による特別監査を受け、貸借対照表および財産目録、債権債務の詳細一覧を作成する。
(4)分割契約の作成と締結
契約には分割後各社の各会社の名称、登録資本金および払込資金、株主の出資引受および出資払込の状況、債権債務の引継ぎ、他会社持分の処理、人員再配置等を明記する。
(5)債権者への通知および公告
会社は、分割決議を行った日から10日以内に債権者に通知し、また、30日以内に新聞紙上または国家企業信用情報公示システムにおいて公告を行わなければならない。公告期間は45日間とする。
分割公告には、分割当事者各社の名称、分割の方式、分割前後の各会社の登録資本および払込資本の額を明示しなければならない。
なお、公告は債権者への個別通知に代えることはできず、会社が把握している既知の債権者に対しては、それぞれに対し分割通知書を送付する必要がある。
(6)登記手続
存続分割の場合は存続会社が変更登記を、新設会社が設立登記を行う。解散分割の場合は旧会社が抹消登記を、新会社が設立登記を行う。子会社の株主構成が変更となる場合は、内部承認手続後に株主変更登記が必要である。
(7)財務調整と資産の名義変更
分割手続が完了した後、分割契約書に基づき、資産の引渡し及び帳簿の調整を行い、不動産、知的財産権、その他資産の名義を新設会社に移転する必要がある。
3.実務上の留意点
(1)登録資本金の取り扱い
「国家工商行政管理総局の意見」および「外国投資企業合併分割規定」によれば、分割後各社の登録資本および実払資本の合計額は、分割前の金額を上回ってはならない。通常、合計が分割前と一致するように設計されるが、減少する場合には減資手続が別途必要となる。
「国家工商行政管理総局による、企業の合併・分割登記を通じた企業再編支援に関する意見」および「外商投資企業の合併及び分割に関する規定」によれば、会社分割により存続または新設される会社の登録資本および払込資本の額は、分割に関する決議または決定に基づいて定めることができる。ただし、分割後の各会社の登録資本および払込資本の合計額は、分割前の会社の登録資本および払込資本の額を超えてはならない。
実務上は、通常、分割後の登録資本および払込資本の合計額が、分割前と同額となるように手続を進める。なぜなら、分割後の登録資本が分割前の登録資本を下回る場合、登記機関から減資手続の同時実施を求められるためである。
(2)分割後の会社の持分比率
「外商投資企業の合併及び分割に関する規定」では、各投資者の分割後の会社における持分比率は、投資者が分割後の会社契約、定款で確定するとされる。ただし、外国投資者の持分比率は、分割後の会社の登録資本金の25%を下回っていはならない旨を規定している。従って、法律上、分割後の会社の株主およびその持分比率につき、分割前と違うことができる。
(3)国有資産の取扱い(国資委第32号令の適用)
会社の存続分割の過程では、持分や資産の所有権が移転することがあり、これが実質的には国有持分や国有資産の譲渡に該当する可能性がある。この点について、国有資産監督管理委員会(国資委)は、公式ウェブサイト上で次のように見解を示している。
国有企業が実施する存続分割は、原則として「財産権の譲渡」または「資産の譲渡」には該当せず、「企業国有資産取引監督管理弁法」(以下「32号令」という)は適用されない。代わりに、「会社法」等の関連法令に基づき処理すべきである。
その理由として、会社分割による持分や資産の移転は、32号令が定める「等価有償」「公開・公平・公正」といった原則に基づく市場取引とは性質が異なり、32号令が求める公開入札や市場公告の手続きを実施することは現実的に困難である。また、合理的な対価の支払いを伴う取引でもない。
したがって、行為の性質および実務上の実行可能性の両面から見ても、国有企業の存続分割に伴う持分や資産の所有権移転については、32号令の適用対象外と解釈される。
(4)債権者保護
「会社法」第223条によれば、会社の分割に際し、債権者との間で債務の承継に関する合意がある場合には、その合意に従い、合意が存在しない場合には、分割後の会社は、分割前の会社が負担していた債務について連帯責任を負う。
(5)従業員の意見聴取の必要性について
「労働契約法」第4条の規定に基づき、使用者が賃金、労働時間、休暇、労働安全衛生、福利厚生、教育訓練、労働規律、作業ノルマの管理など、労働者の切実な利益に関わる重要事項を決定する場合には、従業員代表大会または全従業員による協議を経て、労働組合または従業員代表との平等な協議を通じて方針を決定しなければならない。また、その決定事項は、従業員に対して公示または通知する義務がある。
一般的に、会社分割も労働者の権益に重大な影響を及ぼす事項に該当するため、従業員の同意は必要ではないが、適切なタイミングで意見の聴取、告知の手続きを履行することが求められる。
(6)従業員に対する経済補償金の支払義務について
「労働契約法」第34条および「同法施行条例」第10条に基づき、使用者が合併または分割等を行った場合でも、従前の労働契約は引き続き有効とされ、その権利義務は承継会社により継続して履行される。
また、労働者が自己の意思によらずに新会社へ異動する場合でも、旧会社での勤続年数は新会社での勤続年数に通算される。
したがって、分割後も従業員の労働契約が継続して履行可能であれば、勤続年数は継続して計算され、会社側に経済補償金の支払義務は発生しない。
ただし、分割により労働契約の継続が困難となった場合(例:勤務地の大幅変更等)で、契約内容の変更について当事者間で合意が得られず契約解除となる場合には、会社は従業員に対して経済補償金を支払う必要がある。
4.まとめ
会社分割は、企業再編の有効な手段であり、事業の選択と集中、リスクの分散、コーポレート・ガバナンスの強化等を目的として用いられるが、その手続および波及効果は多岐にわたり、極めて複雑である。
本稿で論じた会社法上の手続、労働契約上の対応、債権者保護措置、国有資産の取扱いに加え、実務上は、税務処理、特定業種における許認可の再取得、資産の適正評価等の論点も密接に関連する。したがって、会社分割の実行にあたっては、弁護士、会計士、税理士等の専門家と緊密に連携しつつ、十分な事前検討とリスク分析を行った上で、慎重に進める必要がある。